豊劇、再生

但馬に住んでいたころ、この地域の娯楽と言えば、映画くらいしかなかった気がします。その当時は、映画館がいくつかあって、「豊岡劇場(通称:豊劇(とよげき))」もその一つでした。

古くて、汚くて、暗くて。でも、その雰囲気が好きでした。

写真の小さな窓口から見たい映画を言ってチケットを買い、大ホールの映画は右手の入り口から、小ホールの映画は左手の入り口から。中に入ると薄暗い中に売店があって、お菓子とその日の映画のパンフレットが買える。壁はそんなに厚くないから、ちょっと早く行ってしまうと前の回の音が漏れてたり。昔は、2本立ての上映なんかもあって、1回の料金で2本映画が見られたような記憶もある。

自分が見る回の時間になって、劇場の扉を開けて中に入ると、お客さんが自分しかいない日もざらにあって、意図せず貸し切りで見れた日は、贅沢な気分を味わえる、そんな場所。

そんな豊劇は、ぼくらが但馬を出ていった後、2012年に静かに一度閉館しました。

あれだけ通ったのに、但馬を離れてからは一度も行くことはなかったし、最後を見届けることもできなかった。

このまま壊されてしまうのかと思っていたけど、地域の人がこの映画館を買い取り、クラウドファンディングや助成金を利用して、再生を果たしました。今から約2年前の2015年のことです。

今では、大ホールはこれまで通り映画を上映し、小ホールは席を取っ払いイベントなどが行えるフリースペースに、売店があった場所は誰もが気軽に来られるCafe & Barに、そして駐車場だった場所にはレストランを作り、映画を見終わった後に余韻に浸れたり、映画だけではない新たな楽しみができる場所として生まれ変わりました。

一度壊したものは、もう2度と元には戻せない。

古くて暗いイメージだった「豊劇」の姿はそこにはなくて、明るくておしゃれなもう別の新しいところになってしまったけど、ここに来ると当時のことを思い出せる、そんな場所がこうした形で残ってくれてよかったなと思います。

チコニアは、兵庫県北部 但馬地方のふるさとの味を届けるプロジェクトです。